夏のマフラー

『編むときは、決まってコーヒーを飲みながら。
 作りかけのマフラーみたいなテキストが、こたつの周りに散らかっているから。
 集中するために、わたしはコップを咥えたまま、パコパコとキーボードを叩いています。
 冷え性のわたしには、こたつの中が一番なのです』
 てゆー、テキストをアイス片手にガシガシ書いてるあたしって、どーにもこうにも、この子みたいになれない。暑いが夏すぎる。

だって

「どこが好きかと問われても。面と向かって答えるのは、なんとなく恥ずかしくって、むつかしいよ。わかってよーもー。わたしのこと、わかってるでしょ?」
 わかってるけど聞きたくなる。だって、好きなんだもん。

ほんとうのせかい

 わたしはいつか東京にでて、素敵なお店に特別な男の人に連れて行ってもらって、たくさんの、いーっぱいのプレゼントを、買ってもらいたいな。
 そして結局その人は嘘ばっかりの駄目人間だって、わかって、悲しくなって、お金稼がなくちゃいけなくなって、つらくて、悲しい仕事をすることになるんだろうなって知ってるの。
 だって、ほんとうの世界は、甘くなんてないのだから。

大人の定義

 どうにもこうにも大人になった気がしない。もうすぐ30も近くなったのに、思い描いていた大人にはまったく近づいた気がしないのだ。
 毎日同じ時間に起きて、同じような仕事をして。
 もっとハードボイルドな毎日があるんだろうな、って夢見てたのは本当に夢だった。毎日イベントがあって、わくわくして。そんなことはなかった。なんとも悲しい世の中だ。これが現実だった。
 どうってことはない。これが現実なのだから、あとは受け入れるだけなのだろうけれど、何とも悩ましい。
 ドトールで高校生カップルたちが、一緒になって勉強をしているのを横目に、私は店員にアメリカンのホット、Lサイズを注文する。もう二度と得られない時間がそこにはあって、羨ましくて仕方が無い気持ちになる。
 もっと女の子といちゃいちゃして過ごしたかった。そういう時間はもう、ないのだろう。お金がいくらあっても得られない。悲しい現実なのだから。
 大人はいったい何を考えて生きるものなのだろうか。人生の最適解が、いまだに、見つからない。

ぐうたら寓話

 毎日の生活にうんざりしたぼくは必要最低限の荷物だけを持ち、旅に出た。すなわち、飛行機に持ち込めるサイズのRIMOWAのスーツケースをコロコロと転がしながら、ただひたすらに自分の知らない道を歩き続けてみたということなのだけど、少ししたら疲れてしまって、結局バスで自宅に帰った。短い旅だった。だって疲れたんだもの。だめな大人だ。
 久しぶりにバスに乗って驚いたのは、千円札を両替する事なしにバスの運賃が支払われ、おつりが出てきた事だ。うっかりおつりから200円を選んで運賃を支払おうとしたら、運転手に「おつり」と言われて、少し恥ずかしかった。ぼくの記憶の中のバスは、乗るときはバスの後ろから。乗り込むときに得体の知れない数字の書かれた紙切れを受け取り乗車した記憶。遠いとおい昔の記憶。記憶と接するといつの間にか心が引き裂かれているときがある。気がついたら自分のハートはぼろぼろで、アイスピックで何回も突き刺されていて、こりゃあ、完全に死んじゃいますね、参ったな、といった具合にまでなる。思い出は良い物ばかりではないから、当然だけれど、ちっともいい思い出が傷ついたハートを癒す感じもなくて、顔がにやけるだけだっていう。我ながらうんざりがっかり。
 バスから降りてひとまず本屋に入って、うろうろ。近頃は本屋になかなか行かなくなった。本を読まなくなったわけではないけれど、何となく本屋自体に興味が薄れてしまったのだと思う。本屋は特に何も変わっていないのだから、単にぼくが変わってしまったということだろう。
 本屋を出て、家に帰った。ジャスミン茶を買ってごくごく飲んだ。なかなかおいしい。唐突にアロマオイルについて気になりだして、ぼくは検索する。アロマってむつかしいな、と思い、何となく納得する。
 興味を持ってから飽きるまでの時間が、とても短くなってきたと思う。もしくは時間の進み方が早くなっただけかもしれない。加速がどうも止まらない。大人ってほんとやだなー、としみじみ思うのである。
 ぐうたらとベッドに転がり、これまでの人生を振り返る。楽しい事はたくさんあれど、どれもそんなにすばらしくない。人から聞く話のほうがよっぽど楽しくて、自分の人生はなんてたいした事ないのだろうともやもやする。とは言っても、どういう人生を送るつもりで生きてきたのかまったくわからない。たまたまこういうことになった、単にそういうことだろう。
 単にそういうことになったのだから、もっとちゃんと生きて行かないとなー、としみじみ思うのである。それなりにちゃんと生きているけど、実際問題、自分の目標にはまったく届かない現実。悲しい世の中。
 ぐうたらして生活したい。ただひたすらにそう思うのでありました。

風子

 風が強い日がわたしは好き。スカートはひらひらしちゃうから押さえなきゃだめだから、めんどくさいけど。髪が風になびいて、頬にちょっぴり強めに風があたるのは好き。

 こういう風の強い日は決まって外に出る。積極的にわたしは目的を作る。そうだ、図書館へ行こう。一緒にお茶しに行ってくれる友達はいないし、遊んでくれる男友達もいないし、あー、なんだか自分の交友関係について冷静に考え始めてきたら悲しくなってきたし、あーもうあーもう。いいんです。しょうがないんです。わたしはこういう人なんです。

 びしっと決めたわたしは家からびゅーんと飛び出して、エレベーターに乗って、4階から1階までおりて、とことこ目的地に歩く。通り過ぎる人たちは皆、風に振り回されているみたいだけど、わたしは風と共に歩いている。風に身を任せて。てくてくと。

「子供は風の子元気な子ー」と繰り返しながら、自分につけられた名前の呪いのことを考えていた。わたしの名前は内緒です。

記憶の価値

「嫌なことが忘れられたらどんなにしあわせかしら」と隣に住むOLのサチコさんは、タバコをくゆらせながら言った。わたしが住む団地では、ベランダでの喫煙は禁止されている。だけど、ベランダで吸うと気持ちがよいとサチコさんはよく言っている。わたしはまだ小さいし、吸ったこともないからよくわからない。
 わたしは背中にしょっていたランドセルをおろして、サチコさんと会話する。今日は土曜日。学校はお昼まで。きっとサチコさんがいると思って、いつもよりも急いで家に帰ってきたところなのだ。サチコさんの日課では、土曜日のお昼にいつも缶ビールを飲みながらタバコを吸い、さきいかをベランダで食べている。だらしない感じのキャミソール姿で過ごしているせいか、団地に住む男の人たちがみんなそろって団地妻って言っているのを聞いたことがある。わたしはセクシーな感じで、好きだけど。
「嫌なことは、たくさん起きるの?」わたしは尋ねてみる。サチコさんは、にかっと笑ったあと、不適な笑みを浮かべながら「あるよー、あるよー、とってもたくさん、こわいくらい起きちゃうよー」と言う。いつもの悪い大人感を出してるな、とわたしは思った。サチコさんは普通の大人とは違う。ほんとう、をちゃんと伝えてくれるから。詳しく説明しなくても、わたしにわかるように。わたしはサチコさんを尊敬している。「まー、あれだ、サキがもちょっと大人になったら教えてあげるよー。それまではあたしの副流煙で我慢してください」
「わかりました。早く大人になれるように頑張ります」「うんうん」
 ベランダで隣同士。雲一つない青空を見上げながら、なんとなくわたしは、本当に嫌なことを忘れたらしあわせになれるのかな、って考えていた。

魔法使いの弟子_1

 魔法使いが住まうという村に入村したぼくは、村についてのレクチャーをしばらく受けたのち、とある魔法使いたちのグループに所属することになった。
 その魔法使いのグループは、主に村で作り出された魔法物を再生する、復旧させる魔法に特化しており、それ以外の魔法は使えないとのこと。魔法使いたちは、高位魔法使いたちが開発した呪文を単に唱えるだけで、呪文の意味は何も理解していなかった。たまに呪文を間違ったりして、とんでもない状態になったりすると、電話で高位魔法使いに連絡をしてなんとかする、ということを行っていた。ぼくは村に入ったばかりだったから、その魔法使いのグループの人について行き、何と無く魔法の仕組みを口頭で教えてもらったりして、習うより慣れろ的な形で、魔法使いとして働き始めたのだった。<つづく>

あの人と出会うまで_1

 わたしは絶望していた。今は就職難の時代。もしかすると自分も就職できないかもしれない、って思ってたら、本当にそうなりそうだった。先行きが見えないから、いつも気分は憂うつだし、大学に行っても、周りは就職先が決まった人ばかり。友達は「大丈夫。裕子だったら絶対に大丈夫だいじょうぶ」だなんて、言っていたけど、何を根拠に大丈夫なのか、わたしにはさっぱりわからないし「あはは。頑張るよー」だなんて、答える自分にもいろいろと幻滅してた。それが毎日繰り返されるんだから、本当に。苦しかった。
 ある朝、エントリーシートを書こうと思って、近所のドトールに行った。いつものように、チョコレートケーキとココアラテを注文して、無い頭をフル回転させるんだって、甘いものを食べていた。エントリーシートを書くときは、いつも悩んでしまう。これまでに書いたエントリーシートではだめだったのだから、どうしたらいいのか、全然わからなくなる。あー、まったく、嫌になっちゃう。<つづく>

ドミノ

 思い出の探索がぼくは好きで、覚えている事柄についてよく検索する。ぼくのすべての記憶は連鎖反応で出来ている。ふと思いついたキーワードから始まって、次第に連鎖していく思い出のキーワードは、だんだんと楽しいことについてのものばかりではなくなってきて、辛かったり悲しかったりした事へのものへと繋がっていく。そしてふと我に返って、何をやっていたんだろうってなる。だいたいこれが朝の4時くらいの出来事。ほんとばかだなって思う。今日も仕事があるのにな、とぼくはただただうんざりしてしまって。それでも、検索がやめられないでいる。
 昔、といっても、確か8年くらい前の話。その頃のぼくは、インターネットを駆け巡ることと、ウェブサイトを作るのに夢中だった。その頃に作っていたサイトはホームページビルダー製で、いわゆるホームページ的なもので、かなり微妙なものだった。その頃はテキストサイトが流行っていて、ぼくもそういうサイトをやっていた。ほんとはさらに5年くらい前からサイトを作ったりしていたけれど、詳細について書くと本題にたどり着けなくなるのでやめる。どちらにせよ、インターネットを始めた頃で、チャットにはまっていたり、サイトを作ったり、2chを見てブラクラにはまったり、ブルースクリーンを何度も見たり、テレホタイムやISDNはじめちゃんとか、そういう時代を経たりしていた。
 ちょうどその頃、あるテキストサイトを本当にたまたま見つけて、ぼくはファンになった。それで、どうやって知り合ったのかもう思い出せないけど、そのサイトの管理人であった、天野、と知り合った。天野はhtmlに詳しくて、ぼくがW3Cのことを知るきっかけになった。Microsoftのメッセンジャーでぼくは彼とよく会話をしていた。天野はぼくと同い年だった。彼は頭が良かった、ように思う。個人的には屁理屈にしか思えないことや、説得してもああいえばこういうスタイルで逆にやり込められることが多々あった。単にぼくの頭が悪かっただけかもしれないけれど。はっきりいえば、そういう天野に憧れてた部分もあって、嫌なやつだなと思いつつも、自分から折れて会話を続けることが多かったように思う。
 天野は大学には行かなかった。ぼくは大学に行った。彼はよく、ぼくに質問してきた。大学に行くことになんの価値がある、と。ぼくは決まって、それを見つけに行くんだよと答えていたが、彼は基本的にニヒリストだったから、なんだそれ、という感じのリアクションをよくしていた。天野はよく、死にたいと言っていた。そのたび、ぼくは死ぬなと言っていたし、それに対してどうして、と聞かれて、答えに困ったりしていた。天野は厭世家でもあった。常に生きる意味がわからない、と言っていた。
 そんな感じで時間が進んで。
 ぼくが大学在学中、天野は基本的にアルバイトで実家ぐらしだった。そして、彼はほぼネットゲームに時間を費やしていた。ぼくはいろいろあって、彼女ができたりした。そんな天野にも彼女が出来ていた。どうやらネットゲームを通じて知り合ったらしい。年上の彼女とのこと。いろいろとのろけられた。たくさんうんざりした。確かこの頃、twitterはあったように思う。
 その頃のぼくの彼女は、インターネットに長けている彼女だったから、天野が知らない、天野の彼女のブログを見つけたりして。そのブログに書かれている内容から、この女の子は「わたしは人を救うことができる! わたしならできる!」と思い込んでいるのと、それにも関わらず「何かの出来事があったり、手におえないとわかると、あっさりと切り捨てる特徴」があるように思えていた。だから、その頃、ぼくとぼくの彼女は天野に対してアラートを上げたし、それを聞いた天野は落ち込んで、自分の彼女のもとに歩いて行って、誤解だった! という感じで、ハッピーエンドみたいに勝手になっていた。これが恋は盲目ということなのだな、と理解した。
 結局ぼくはいろいろあって、彼女と別れて、残念な学生生活を進めていた。一方、天野はtwitter上で彼女とののろけをたくさん書いていた。この頃、ぼくはというと、就職活動を始めていた。
たまたま東京で面接があって、天野と会話して、なぜか天野の家に泊まることになった。とはいえ、天野は実家暮らしだったし、それはちょっと、と言いつつも、問題ない、という流れだった。
 天野の家に泊まると、天野から聞いていた天野自身のバックグラウンドがよく理解できた。詳しくは書かないが、天野自身は自分の存在理由に対してとても不安定だった。そして、その理由が家庭的な環境からだと前から言っていた。ぼくは彼の家に泊まって、わかる気がした。
ぼくは内定をもらって、それから残りの学生生活を進めていた。いつものように、twitterで垂れ流されるラブい空間にぼくはうんざりして、忙しさもあって、疎遠になった。メッセンジャーのブームも終わっていて、会話する機会はなくなった。ただ、ぼくは彼のtwitterをたまに見ているだけになった。
相変わらず彼はバイトで、にもかかわらず、彼女の家に近い所がいいと、横浜に引っ越して一人暮らしを始めていた。彼女がいさえすれば、ぼくが生きていける、と。続くのろけにうんざりしつつ、見ているぼくはぼくで頭がおかしいなと思っていた。
 あるとき、天野のtwitterに異変が起きた。ログを見る限り、どうやら彼女が別の男に乗り換えようとしていたことに気がついたようだ。それも天野が属していたネットゲームのコミュニティ内で。定期的にオフ会などに参加していた天野とその彼女。その彼女は、コミュニティが壊れると嫌だから、とメンバーには天野と付き合っていることを言っていなかったらしい。案の定である。
 天野には当然非があって、いつまでたってもバイトだったし、定期的に思い描く彼女との未来は決して得られるとぼくにはまったく思えてなかった。だけど、天野の性格を理解して、それでもなお、わたしが彼を救うんだ、と言っていたにも関わらず、そういう捨て方はないだろう、とぼくは思った。はっきり言って、この女はろくでもないと思った。わかっていてそうした、とぼくは判断した。
 しばらくして、天野はtwitterアカウントを削除した。でもぼくは、次のアカウントを見つけてしまった。静かに観察する。天野がだんだんと壊れていった。彼女に振られ、絶望していく。生きる目的と見失った天野は、またアカウントを削除した。またアカウントを作成していた。それをぼくは見つけていた。
天野が絶望から狂気に落ちていく。天野は別れた彼女のアカウントに対して、死ねだったり、気を付けてくださいね、などと脅迫じみた内容を書き始めた。バイトを辞めたらしい。自殺未遂をしたようだ。続くツイートに、ぼくはめまいがしつつ、それでも関わることはしなかった。ただ見ていた。
 ツイートが停止した。しばらくして、彼の弟の書き込みがあった。彼は自殺した、と。本当かどうかはわからない。でも、それが彼をインターネット上で見た最後で、それ以降彼を見つけることができなくなった。ただ見ていただけだったぼくの行動は悪だったのだろうか。ふとした瞬間、思い出して、考える。
 ふとした朝、ぼくは気になって検索する。彼はきっと生きているのではないか、と。