かわいくなりたい!

プロローグ

 かわいくなりたいなあ……。

 ふとこんな風に同僚のメイド、山田相子を見るたびに思うあたし。窓の外に見える彼女は長い黒髪。いつも、ほこほこ炊きたてのご飯みたいなやさしい笑顔で、いつも一生懸命働いている。

 たまにドジしちゃうけど、どういう訳かそんなの、まったく気にならない。いつものあたしだと、イラっとしてしまいそうだけど、ならない。ただただ、ぎゅっとしたくなる。それくらい、彼女はすごくかわゆいのだ。たぶん、女のあたしでも思うのだから、きっと世の男達はあたし以上にそれを感じてるんだと思う。いいなあ、あたしも、出来たら、かわいくなりたいなあ……。

「つまり、みいちゃんは可愛さについて知りたいってことだな。そういうことだな!」

「えええええ」

 どうやら、うっかり思ってたことを口に出してしまっていたらしい。しかもそれを、いつの間にかあたしの部屋に入っていた同僚の執事、塩谷シュガーに聞かれてしまっていたようで、ひどくあたしは混乱した。

 だって、突然あたしのベッドの上で寝てるんだもん。よくわからない恥ずかしさと、どういうシチュなのよ一体、この人は何であたしの部屋に居るのよ。いろんな思考が頭の中いっぱいに広がって、どうしようもなくなる。必死で思いついたのは、とにかく否定しなくちゃいけないということ。

「う。あぅ。べっ、別に……そ、そういうわけじゃないけど」

「あれ? え、そうなの? おれ、みいちゃんを可愛くする方法知ってるよ? いいの?」

 この男は……。ベッドからむくりと起き上がり、キョトンとした目で、ほんとにいいの? と尋ねてくるのが、この人の常套手段。目を見ちゃ駄目。だめよ。単純に、無視すればいいだけなのに、つい反応してしまうあたし。

「じゃ、じゃあ……ど、どうすればいいのよ?」

「うはは。インターネットを使うのですよ! 昔の人は言いました。可愛い子には旅をさせよ! でもおれたちは旅に出る暇なんてないわけだ。ね。普通は諦めるかもしれない。でもおれは発見したんだよね。ネットサーフィンも一種の旅ってね! そう考えてさ、つまりね、みいちゃんはネットで旅をすればいいのです」

 まったく意味が分からない。

「旅? 具体的に何をすればいいのよ」

「つまりね、みいちゃんは、ネットのかあいい子を見ていってさ、どうやったら可愛くなれるのか考えていけばいいんだよ。おれ、ネットで可愛い子知ってるし、きっとすごく可愛くなる方法とかわかるんじゃね? っていう具合なわけ」

 よくわからないけれど目が本気なので、ついコタツの上にある、自分のパソコンを見るあたし。

「まあ、あれだよね。みいちゃんはもともと可愛いからおれとしては別にどうでもいいことだと思うんだけれど、まあ、ネットでいろんな人を見てみるのは悪くないかと。結果的に、しょこたんみたいに、みいたんになってもいいんじゃないか。うはは。カワユスカワユス。あ、勘違いしちゃだめだよ。おれはみいちゃん一筋だから。しょこたんはおれのタイプじゃない。かわいいけれどね」

「ば、ばか!」

 ヤツのほっぺをつねる。

「イテテテ……。でも気持ちいい気がするなあ。うはは」

 こうしてあたしは、インターネットで活躍する可愛い女の子が作ったサイトを見ていくことになった。まったく、変なの。

* * *

第一回 スク水

 http://ascii.jp/elem/000/000/017/17341/

「け、結論がスクール水着……」あたしはタイトルを見て絶句する。

「これじゃあ、萌えないよなあ。少なくともおれは萌えない。スク水を着たらそれで解決って、どういう思考してるんだろうなあ」

「ていうか、これと可愛くなるのとどういう関係があるっていうのよ、ばか! 萌えとか意味わかんないし」怒る気にもなれず、あたしは持ってきたコーヒーを飲む。

「いや、まー。気にしなくてもいいよ。よくわかんないなりに読んでいってもらえたらいいから。うん。一応、萌えというワードがあるところには、よく可愛くなる要素みたいなものがあったりするんだよね」

「わ、わかったわよ。見ればいいんでしょ見れば。んー……。あれ、何これ。『番組内で「にゃんにゃんにゃん」を連呼するなど、もともと萌える要素は持っていたのだが』ってあるんだけれど、どゆこと?」

「番組内で「にゃんにゃんにゃん」を連呼したんじゃなかろうか」

「にゃんにゃんにゃん?」

「ああああああ、かあええ、この意味がわからず無邪気に言うみいたんは危険だなあああ」

「……意味わかんないし」

「まあ、そういう風に言えば、世の大きなお友達が喜ぶと彼女は思っているんだろう。事務所的にそういう方向なのかもしれない。しかしながら、あざとい。無邪気に、無意識に言ってこそ、ぐらっとくるワケで、狙ってするのはどうかとおれは思うな。そういうの、嫌いじゃないけど、なんていうかなー、難しいよね」

「無邪気、無意識……」

「でもその無邪気さ、無意識さがずっと続くのはあまりよくない。多くの場合、すぐさまグッっと来てたのに、違和感を感じてしまう。つまり、ニブいなー、とかそう思われちゃう。やはりどっかで自分のしたことの本質に気づいてほしいなあ、なんて願うわけです。あ! あれはこういう意味だったのね、と納得して欲しい」

「ふーん……」いまいちよくわからないけど、自分がしたことに対して、後からまたリアクションが欲しい、ってことなのかな、と自分の中で適当に納得するあたし。でもにゃんにゃんにゃんにどうリアクションしたらいいのかな。全然わかんないし。

「ま、そういうことはまだみいちゃんには難しいかもなー。ま、今回おれがこれを見せたのは他でもない、スク水を着て欲しかっただけなのである」

「はあああああああ!?」

 どこからともなくスクール水着を取り出すシュガー。サイズはたぶん大きめだろうけれど、それがいいのである。とにかく似合う。なんて言いながら渡してくるものだから、つい受け取ってしまったあたし。似合うとかそういうの、受け取る理由になんかならないじゃない普通は! うー。これで着替えなかったらなんだか受け取った自分がばかみたいになる気がする。

「じゃあ、おれは少し部屋から出てるから着替えてみてね! すごい楽しみだ! わはは。あ、一応チャイナ服もここに置いておくね。好きな方に着替えてくださいな。まー、本音を言えば、おれとしてはどっちでもよかったり。どちらもロマンがあるしな! うはは」

 ばたん。部屋から出て行ったあいつ。あたしは、それを確認した後しぶしぶ着替えることにした。ふんだ。決してこういう服に興味があるワケじゃないんだから。ほんとだもん。

村田さんブカブカ水着姿

 着替えてみて気づいたこと。水着が思ったより大きくて、横から胸が見えてしまうこと。う……あんまり説明したくない。

 部屋をノックする音が聞こえる。「もー、おっけー? 入ってもいい?」だめ。これじゃあ、見えちゃう。「だめ。水着はやだから、もう一個の方に着替えるから少し待って」

「あいあい。まー、たぶん水着の方は横の隙間から胸が見えちゃうだろうから、みいちゃんにはまだレベル高いよね。エロイし。胸が小さかったら別の意味でエロイけれど、みいちゃんは大きいからなあ。別のラインで、余計にエロイ。ぴっちりしてるのは、おれはあんまり好きじゃないから。うはははは。嫌いじゃないけども」

 こ、こいつ……わかってて持ってきてたのか……。脱力するあたし。ったく、言いなりになってるのもどうかと思うけど、うー。

 もう一つの服、チャイナ服に着替えてみる。今度は普通だ。よくある赤いチャイナ服。胸の所に龍のデザインがあって、足の所にはそれなりのスリットがあって……す、スリット!?

「そろそろいいかしらーん。開けるよー。がちゃり、と」

 ば、ばか! まだ入るなばか!

村田さんチャイナ服

「スリットはおれのコスモ! あああ! すんごい可愛い」

 は、恥ずかしい……。なぜだかあたしを写真で撮り出すあいつ。デジカメいつ買ったんだろう。小さくてかわいいデザイン……いやいやいやいや、今はそういうの関係ないし! なぜだかされるがままになっている自分。まったくこいつは天敵に違いない。むー。

 一応自分の服全体を見渡してみる。特に目立って変なところはないみたい。水着の時みたいにおかしい所があったら殴ってたね。たぶん。ちょっと気になるのは……少し胸元が開きすぎなことと、スリットが入りすぎな気がすること。ぎりぎり許容範囲かな。うん。

 深呼吸をする。そして、あたしは尋ねてみる。

「チャイナ服のどこがいいのよ」

「スリット」即答。写真を撮るのもやめて、びしっとあたしのスリットを指さす。なんか非常にむかつく。どうして腹が立つのかはよくわからない。

「足が見えるのがいいの? スリットの。それとも生地?」

「生地は本物以外みとめねえ! これはメイド服にも言える! 安物のテカテカした服なんて願い下げだ!」

「……意味わかんないし。うーん。てことは、足より生地なの?」

「いやいや、スリットがいいの。足とかじゃなくてスリットという存在がいいの」

「具体的にお願い。わかんない」

「あー。うー。ミニスカートとタイツの間に存在する絶対領域のような、いや、ちょっと違うような違わないような……難しい」

「じゃあ、どうしてスリットがいいのよ。何となく?」

「だって、スリットなかったら手つっこまれへんやん!」

 なぜにそこで関西弁になるのよあんたは! でも真顔だからツッコミを入れようにもうまく言葉が出ない。く、くやしい。

「だって切れ目あるんだぜ! たぶんチラリズムの一種なんだろうなあ。でもパンツは見えなくてもいいの。見えたらそれはそれで違う気がする。でも足は見える。普通は見えない所が見える。つまり、スリット最高! ってなるわけですよ。コスモが見える」

「……ばか」

 こんなことであたし、ほんとにかわいくなれるのかなあ……恥ずかしい。

(村田みい)

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